公共経済学

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公共経済学
22. 租税の帰着と中立性
22.1 帰着と超過負担
22.2 租税の転嫁と直接税・間接税
22.3 超過負担と課税の中立性
22.1 帰着と超過負担
租税の帰着について、財 x の市場に個別消費税(酒税、タバコ税、揮発油税、ゴルフ場利
用税など)が導入される効果について検討しよう。
なお、以下では比例税のケースに限定して議論する。
p d =消費者価格(税込み価格、需要者価格)
ps =生産者価格(税抜き価格、供給者価格)
t =個別消費税(従量税; unit tax)の税率
従量税=その財の量に比例して税額が決まる税
従量税の税率=1 単位当たりの税額
そのとき、
p d = ps
が成立する。
t
(22-1)
<酒税について(平成 18 年 5 月以降)>
その他醸造酒
(発泡性)
「第3のビール」
麦芽を使わない
発泡性酒類
区分
リキュール
(発泡性)
税率
アルコール分
(1kℓ当たり)
1 度当たりの加算額
220,000 円
-
発泡酒(麦芽比率 25~50%未満)
178,125 円
-
発泡酒(麦芽比率 25%未満)
134,250 円
-
80,000 円
-
140,000 円
-
120,000 円
-
80,000 円
-
200,000 円
10,000 円
発泡性酒類 ビール
その他の発泡性酒類
第3、第4のビール
醸造酒類
清酒
果実酒
蒸留種類
(アルコール分 20 度)
ウイスキー・フランデーなど
370,000 円
10,000 円
(アルコール分 37 度)
220,000 円
11,000 円
100,000 円
-
20,000 円
-
甘味果実酒・リキュール
120,000 円
10,000 円
粉末酒
390,000 円
-
混生酒類
合成清酒
みりん・雑種
「第4のビール」
発泡酒に麦の蒸
留酒を加えた酒
実はウィスキーを発展させたのは「税金」
1725年、スコットランドでは「麦芽税」という税金が導入された。そして、1780年から90年代に
かけては釜容量税を中心に増税が繰り返され、税金が50倍近くにも膨れ上がった。
当時、スコットランドのローランド地方に大規模な蒸留所が建てられたが、この蒸留所では麦
芽の使用量を3分の1に減らして、未発芽の穀類を使用して麦芽税を節約した。さらに、釜容
量税が導入されると蒸留釜の深さを3分の1に浅くし、蒸留回数を数十回に増やすことにより
採算をとろうとした。そして、1830年以降発達した連続式蒸留器を積極的に採用した。このよ
うにローランド地方では大規模な蒸留所を作ったためいろいろな手段で税金対策をした。その
結果、おとなしい味わいのグレーンウィスキーに発展したのである。
一方、小規模な蒸留所は1774年以降小規模な蒸留釜が認められなくなったため、正規にウィ
スキーを作ることができなくなった。その結果、彼らのとった手段が密造である。彼らは密造す
るために蒸留所をハイランド地方の山奥に移転させた。その山奥で彼らは周辺の野山にピー
ト(泥炭)を見つけだし、麦芽を乾燥させるための燃料として利用した。その結果、ウィスキー
に爽やかな香味が加わるようになった。また、彼らはできあがったウィスキーを収税吏の目を
逃れるためにシェリーの空樽に詰めて隠した。すると、ウィスキーは樽の中で熟成され、まろ
やかな味わいと琥珀色を持つようになった。これが後にモルトウィスキーとして完成することに
なる。
樽の中で熟成するという手法だが、これが始められたきっかけとして前述したもの以外に次の
ような説もある。それは、帆船に積まれたワインが熱帯の海を航海中に風味を増したという話
を元に、シェリーの樽に詰めて熱帯の海での航海と同じ効果を出せるように熱い室に数ヶ月
入れて熟成させたのが始まりだという説である。
(出所)「UISGE BEATHA(ウースカ・ベーハ)」ホームページ
<主要国におけるビールの税 >
主要国におけるビールの小売価格と酒税および消費税等の税額
(大びん633ml1本当たり換算)
(出所) ビール酒造組合ホームページ
<海外主要国の酒税と日本との比較 >
主要国におけるアルコール分1度当たりのビール酒税額指数
(蒸留酒を100とした場合の指数)
(出所) ビール酒造組合ホームページ
<日本における最初のビール税>
明治の初めにはビールには酒税が
課せられていませんでした。一方、
清酒は地租と並んで歳入の二本柱
となっており、ビールに比べて不公
平であるという不満が高まっていま
した。
明治33年、北清事変が起きると、
翌年10月にビールにも軍備増強の
ために酒税が課せられることになり
ます。資金力の弱い小醸造所はそ
の負担に耐えられず、姿を消してい
きました。ビール産業は明治30年
代から40年代にかけて再編成され
ることになりました。
(出所) ビール酒造組合ホームページ
350mℓ(=0.35ℓ)の缶ビールの消費税を抜いた価格が 200 円であったとする。
この税込み価格に占める税額(=酒税額+消費税額)の割合はどれだけになるであろうか。
ビールの酒税の税率=220,000 円/kℓ=220 円/ℓ
消費税額= 200 円×0.05=10 円
酒税額= 220 円/ℓ×0.35ℓ=77 円
税負担額= 10 円+77 円=87 円
税込価格= 200 円+10 円=210 円
税負担割合= 87 円/210 円≒41.4%
需要関数と供給関数を
x  xd ( pd )
(22-2)
x  xs ( ps )
(22-3)
と表すことにする。
そのとき、(22-1)と(22-3)より供給関数は消費者価格
x  xs ( pd  t )
と表すことができる。
p d = ps  t
p d を用いて
(22-1)
(22-4)
pdt =税率 t のもとで均衡消費者価格
pst =税率 t のもとで均衡生産者価格
x t =税率 t のもとで均衡取引量(=均衡需要量=均衡供給量)
(22-2)と(22-4)より
xd ( pdt ) = xs ( pdt  t)
[ x ]
t
(22-5)
となる。そして、(22-1)より
pst = pdt  t
である。
t  0 のときは消費者価格と生産者価格が一致する( pd0 = ps0 )ので、
0
その値を単に p と表すことにする。
(22-6)
(問題 22-1)下の図のどの直線に x  xd ( pd ) 、 x 
xs ( pd ) 、 x  xs ( pd  t ) が対応してい
0
0
t
るかを図示するとともに x 、 p 、 x 、 pdt 、 pst を図示しなさい。
pd
x  xs ( pd  t )
x  x s ( pd )
pdt
t
p0
pst
x  xd ( pd )
xt
x0
x
<帰着(tax incidence)>
租税負担額= t
x t =( pdt - pst ) x t
(tax burden)
消費者の租税負担額(=消費者への租税の帰着)=(
pdt - p 0 ) x t
生産者の租税負担額(=生産者への租税の帰着)=(
p 0 - pst ) x t
⇒
租税負担額=消費者への租税の帰着+生産者への租税の帰着
[生産者=株主]
財xは中級財
補償変分=消費者余剰の増分=等価変分
<超過負担(excess tax burden)>
消費者の実質的租税負担額=消費者余剰の減少分
=課税による等価変分にマイナスを付けた値
生産者の実質的租税負担額=生産者余剰の減少分
実質的租税負担額=消費者の実質的租税負担額+生産者の実質的租税負担額
租税の超過負担=実質的租税負担額-租税負担額
(問題 22-2)下の図の番号が入っている図形の面積を用いて租税負担額、消費者の租税負
担額、生産者の租税負担額、消費者の実質的租税負担額、生産者の実質的租税負
担額、実質的租税負担額、租税の超過負担を求めなさい。
pd
租税負担額= Ⅰ+Ⅱ
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
消費者の租税負担額= Ⅰ
生産者の租税負担額= Ⅱ
消費者の実質的租税負担額=Ⅰ+Ⅲ
生産者の実質的租税負担額=Ⅱ+Ⅳ
実質的租税負担額=Ⅰ+Ⅱ+Ⅲ+Ⅳ
x
租税の超過負担=Ⅲ+Ⅳ
(問題 22-3)課税対象となる財の消費(あるいは生産)が外部性をもたらす場合には、租
税の帰着により余剰が減少する経済主体ばかりでなく、消費者余剰や生産者余剰
が増加する経済主体も存在する可能性があることを、タバコ税を例として検討し
なさい。
消費者余剰
受動喫煙の減少による消費者余剰の増加
生産者余剰
ホテルの客室清掃費用の減少による利潤増
<紙巻たばこの税>
税率
区分
(1,000 本当たり)
国のたばこ税
3,552 円
道府県
1,074 円
市町村
3,298 円
計
4,372 円
小計
7,924 円
たばこ特別税
820 円
合計
8,744 円
地方たばこ税
20 本入り箱のたばこの消費税を抜いた価格が 260 円であったとする。
この税込価格に占める税額(=たばこ税+たばこ特別税+消費税額)の割合はどれだけにな
るであろうか。
たばこ税率+たばこ特別税の税率=8,744 円/1,000 本
消費税額= 260 円×0.05=13 円
たばこ税額= 8,744 円/1,000 本×20 本=174.88 円
税負担額= 13 円+174.88 円=187.88 円
税込価格= 260 円+13 円=273 円
税負担割合= 187.88 円/273 円≒68.88%
22.2 租税の転嫁と直接税・間接税
<納税義務者と租税負担者>
納税義務者=政府へ納税する義務を負っている者
源泉徴収制度
=給与・報酬・利子などの支払者がそれを受け取る納税義務者(個人)に課される
所得税の概算額を天引きして納税義務者に代わって税務官庁(税務署)に納税する
制度
徴収義務者=納税義務者に代わって納税する義務を負っている者
(問題 22-4)個人所得税と利子所得税における納税義務者と(源泉)徴収義務者はそれぞれ
誰か。また、一般消費税の納税義務者は誰であろうか。
(問題 22-4)個人所得税と利子所得税における納税義務者と(源泉)徴収義務者はそれぞれ
誰か。また、一般消費税の納税義務者は誰であろうか。
<納税義務と源泉徴収義務>
納税義務者
徴収義務者
収入を得た個人
支払った主体
利子所得税
利子を受け取った主体
利子を支払った主体
(一般)消費税
個人事業者および法人
個人所得税
(給与、配当、報酬)
<租税の転嫁(tax shifting)>
(租税の)転嫁=租税負担(の一部)が納税義務者から他の経済主体に移転すること
個別消費税の納税義務者が企業(株式会社)であるとする。
後転(backward shifting)
=租税負担が生産要素価格の低下を通じて生産要素供給者へ転嫁
前転(forward shifting)
=租税負担が生産物価格の上昇を通じて消費者の負担に転嫁
生産要素(労働、土地)
→
企業=出資者(株主)
→
生産物(物品・サービス)
(問題 22-5)一般消費税を例として後転と前転とはどのようなことかを説明しなさい。
前転= 生産物の税込価格の上昇
後転= 賃金率の下落
<直接税と間接税>
主な租税負担者=租税負担額(帰着)の割合が大きい者
(例)
「消費者の租税負担額/租税負担額」が大きい ⇒ 「主な租税負担者=消費者」
直接税=「納税義務者=(予定される)主な税負担者」
間接税=「納税義務者≠(予定される)主な税負担者」
=税込み価格
(問題 22-6)一般消費税の税率が引き上げられたときに、生産物の価格、株主への配当、
労働者(被雇用者)への給与所得にどのような影響があると考えられるか。また、
これらのなかで最も大きな影響が生じると考えられるのはどれであろうか。さら
に、その議論を基にして一般消費税が直接税か間接税かについて検討しなさい。
生産物価格への影響= 税込価格が上昇し、その影響は大
配当への影響= 減少するものの影響は小さい
間接税
賃金率への影響= 低下するものの影響は小さい
(問題 22-7)法人税の税率が引き上げられたときに、生産物の価格、株主への配当、労働
者(被雇用者)への給与所得にどのような影響があると考えられるか。また、こ
れらのなかで最も大きな影響が生じると考えられるのはどれであろうか。さらに、
その議論を基にして法人税が直接税か間接税かについて検討しなさい。
生産物価格への影響= 税込み価格が上昇するもののその影響は小さい
配当への影響= 減少し、その影響は大きい
賃金率への影響= 低下するものの影響は小さい
直接税
<直接税・間接税と課税対象について>
直接・間接
直接税
国
対象
所得
間接税
地方
都道府県
国
市町村
所得税
道府県民税
市町村民税
法人税
法人住民税
法人住民税
地方
都道府県
市町村
法人事業税
事業所税
ゴルフ場利用税
消費税
酒税
三木義一『日本の税金』
岩波新書
国のたばこ税
非耐久
消
道府県たばこ税
市町村たばこ税
地方道路税
地方道路譲与税(1/2)
地方道路譲与税(1/2)
石油ガス税
石油ガス譲与税(1/2)
費
軽油取引税
耐
取
久
得
消
費
財
産
入湯税
揮発油税
消費財
資
地方消費税
所
自動車取得税
自動車重量税
自動車税
自動車重量税
国税庁HP
有
不動産取得税
取得
所有
軽自動車税
相続税・贈与税
地価税
固定資産税
<ガソリン関税諸税>
税率
区分
ガソリン税
(1ℓ当たり)
暫定
本則
暫定-本則
揮発油税
48.6 円
24.3 円
24.3 円
地方道路税
5.2 円
4.4 円
0.8 円
石油税
2.04 円
2.04 円
0円
原油関税
0.17 円
0.17 円
0円
合計
56.01 円
31 円
25.1 円
(注) 暫定税率は2008年3月末に期限切れになったが2008年5月に復活した。
ガソリン 1ℓの消費税を抜いた価格が 140 円であったとする。
税込み価格に占める税額(=ガソリン諸税+消費税額)の割合はどれだけになるであろうか。
消費税額= 140 円×0.05=7 円
ガソリン諸税の税額= 56.01 円/ℓ
税負担額= 7 円+56.01 円=63.01 円
税込み価格=140 円+7 円=147 円
税負担割合= 63.01 円/147 円≒42.86%
22.3 超過負担と課税の中立性
t
0
課税の中立性=課税されたときに均衡取引量が変化しないこと( x = x )
中立的な課税=中立性を満たす課税
(問題 22-8)下の図のように「需要曲線が垂直な部分と供給曲線が交わっているとき」に
0
0
t
ついて x 、 p 、 x 、 pdt 、 pst を図示しなさい。また、このケースは中立的な課
=
税と呼べるか。また、超過負担の大きさを求めなさい。
0
pd
x  xd ( pd )
x  xs ( pd  t )
pdt
x  x s ( pd )
t
pst = p 0
=
消費者余剰の減少分
= 租税負担額
=
x0
中立的
x
xt
生産者余剰の減少分=0
実質的租税負担額= 消費者余剰の減少分= 租税負担額
(問題 22-9)需要曲線が垂直に近い財の例と供給曲線が垂直に近い財の例を挙げなさい。
必需品(塩など)
需要曲線が垂直に近い
嗜好品(酒、タバコなど)
供給曲線が垂直に近い
土地、天然資源など
px  y  m であり、効用関数が u  k  min(x  x, 0)  y
であるとする( k  x  m )。このとき、財 x が中級財であることを確認すると
ともに、需要曲線を x p 平面に図示しなさい。
(問題 22-10)予算制約式が
y
px  y  m
m
p
x
p
x
y
px  y  m
u*  k min(x  x, 0)  y
m
u
*
【 p  kのケース】
k
・
p
x
x
x
x
p
k
y
【 p  kのケース】
px  y  m
m・
u*  k min(x  x, 0)  y
u*
p
k
x
x
x
x
p
k
y
【 p  kのケース】
px  y  m
m
u*  k min(x  x, 0)  y
u*
k
p
x
x
p
需要曲線
k
x
x
(問題 22-11)
「供給曲線が垂直な部分で需要曲線が交わっているとき」について
=
問題 22-8 と同様の分析を行い、超過負担の大きさを求めなさい。
pd
x  xd ( pd )
0
x  xs ( pd  t )
pdt  p 0
t
pst
x  x s ( pd )
=
生産者余剰の減少分
= 租税負担額
x
=
x0
xt
消費者余剰の減少分=0
実質的租税負担額= 生産者余剰の減少分= 租税負担額
(問題 22-12)
中立性と超過負担の大きさがどのような関係を持っているかを検討しなさい。
EB=超過負担
供給曲線
非垂直
垂直
需要曲線
非垂直
非中立
問題22-2
中立
問題22-11
EB>0
中立
垂直
EB=0
?
問題22-8
EB=0
?
x  xd ( pd )
pd
x  xs ( pd  t )
消費者余剰の減少分= Ⅰ
不定
生産者余剰の減少分=Ⅱ
t
p0
pst
Ⅰ
実質的租税負担額=Ⅰ+Ⅱ
Ⅱ
租税負担額=Ⅰ+Ⅱ
x  x s ( pd )
x0
=
pdt
xt
超過負担= 0
x
(問題 22-12)
中立性と超過負担の大きさがどのような関係を持っているかを検討しなさい。
EB=超過負担
供給曲線
非垂直
垂直
需要曲線
非垂直
非中立
問題22-2
中立
問題22-11
EB>0
中立
垂直
EB=0
中立
問題22-8
EB=0
中立 ⇔ 超過負担ゼロ(EB=0)
問題22-12
EB=0
22.1 帰着と超過負担
22.2 租税の転嫁と直接税・間接税
22.3 超過負担と課税の中立性

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